「すすき」
川べりに揺れるすすきが目に入ると秋の風情を感じるものです。あれほど暑かった夏の日が嘘のようにさえ感じられます。
コロナウィルス感染症を初めて耳にした令和の冬、遠い異国で起こったことと感じていたことが、春になると世の中が混乱し、すっかり我々の生活様式までも変える程の大きな出来事になってしまいました。この夏もこれまでとはまったく違う過ごし方をされたのではないでしょうか。
我々は時として頭では理解していても、行動に移せないことが多々あります。決して軽んじているわけではないのですが、いざ行動に移そうとすると億劫に感じたり、後回しにしたりすることがあります。
大正、昭和に活躍した俳人・飯田蛇笏が詠んだ歌に
おりとりて はらりとおもき すすきかな※
という句があります。すすきを手折って手にすると、はらりと軽やかに穂がなびいて見えたのに、意外にも重いものだなという意味です。
遠くから何気なく目に入ったすすきに関心がなければ、風景の一部にすぎずあまり気になりません。しかし、実際に触れたり持ったり、自身にとって身近なものになって初めて事の重大さ、その本質の大切さを知ることができるのです。身の回りにあるものすべてに注意してみると、そのすべてに大切な本質があることに気づかされるのではないでしょうか。
※『山盧集』収録