「あじさい」

 

静寂の中、恵みの雨に彩られ咲き誇る紫陽花あじさいは、見る者の心を潤し優美で幻想的な世界へと導いてくれます。

高浜虚子に師事し、俳誌『曲水』を創刊主宰した東京出身の俳人渡辺わたなべ水巴すいは(一八八二~一九四六)は

 紫陽花や 白よりいでし 浅みどり

うたっています。時とともに移りゆく花色の、繊細なさまが伝わってくる俳句です。

紫陽花は様々な色と形の小花がたくさん集まり、一つ輪の花が形作られています。それぞれの小花がアクセントとなり、他の小花を引き立たせて花を装い、表情を変えてより一層美しくさせていくのです。それは、私たち人間の社会も互いに寄り添い、支え合いながら生かされ、共に成長していく姿と、どこか重なり合うような気がします。与えられた得難い命を互いに尊重し、一人ひとりが精一杯輝かせ、仏心の花を咲かせていきたいものです。

皆で寄り添い咲かせる紫陽花は、きっと見る者の心に安らぎを与える慈愛に満ちた花色となるのではないでしょうか。