新嵯峨野物語
2014年11月の記事一覧

執筆者ご紹介

「今宮神社付近」

藤川桂介 

東京都出身。脚本家小説家放送作家日本文芸家協会日本ペンクラブ、日本脚本家連盟会員。京都嵯峨芸術大学客員教授。ウルトラセブンなどの円谷プロ作品の脚本をはじめTVアニメーション作品として宇宙戦艦ヤマトムーミンマジンガーZ・やオリジナルアニメーション作品ウインダリアなど。また小説『宇宙皇子(うつのみこ)』などベストセラー作品がある。

新連載にあたって

4月から連載が始まることになりました。

ところがなぜか、終わるお話からすることになってしまいました。

実は連載の終了する年の翌年、平成30年(西暦2018)は、干支(えと)でいいますと戊戌(つちのえいぬ)ということになるのですが、この年は畿内を中心に風水害に襲われて、洪水が起こり、そのために疫病が発生して、多くの人々が亡くなったことが記録されています。その国家的な危機を救ったのが、為政者としての嵯峨天皇の真摯な取り組みでした。

暮らしを慎み、必死に般若心経の浄写を行って、空海に熱祈祷させたといわれているのですが、きっと二人の真摯な思いと、努力が、天に通じたのでしょう。ようやく危機を乗り越えられたといいます。

さまざまな歴史的な困難と直面しても、逃げることなくその問題に取り組んでこられた、嵯峨天皇の熱い思いを、是非追体験して頂こうと、大覚寺では六十年に一度巡ってくる戊戌の年には、皇室のご来臨を頂いて、天皇が浄写された、般若心経が収められている心経殿(しんぎょうでん)の勅封を解いて頂き、それを一般に公開することにいたしております。

そうした今世紀最初で最後の盛儀を前にした、新連載ということなのですが、これまで嵯峨天皇に関しての図書が、ほとんど皆無であることに気がついたのです。

天皇は「仁」を基本とした、慈しみの善政をしかれたということで、広く評価をされている方なのですが、これまでそれが、あまり世に知らされていない恨みがあります。

自然を愛し、そこに存在する花一輪の沈黙の間合いを通して、生きとし生きるものの生命の尊さ、愛しさを感じ取ってこられた、天皇の生きた生活と心情、治国、為政で葛藤される姿が、少しでもお伝えできたらと考えているのです。行間を読み取ろうとする日本文化の特質を、自ら発揮されようとなさったように、天皇の言動の行間が、みなさんに読み取って頂けましたら、作家として望外の喜びとなります。

天皇と空海との交遊ぶりについても、きっとこれまで伝えられていなかったこと、新たな発見が、かなりあるでしょう。未知との遭遇が沢山あって、少しでもお楽しみ頂けたらと思っています。

 

新嵯峨野物語 悲劇の皇太子たち (花とよみがえりの寺)

この表題には、嵯峨天皇が大覚寺に託された思いが籠められています。嵯峨天皇について理解を深めて頂くことを願いながら、天皇から許しを頂いて、高野山道場が開かれてから、1200年という節目の時を迎える弘法大師空海にも、是非、親しんで頂けたらと思っているところです。

新連載の意図をお汲み取り頂いて、是非御支援下さい。

藤川桂介