福寿草ふくじゅそう

 

新しい年を迎えました。皆様方におかれましては、佳き新春をお迎えの事とお慶び申し上げます。さて、寒さの厳しい冬にあって花をつける植物の一つに、福寿草があります。旧暦の正月に花を咲かせることから元日草がんじつそう朔日草ついたちそうとも呼ばれます。鉢植はちうえのものを正月飾りとすることが江戸時代に習慣化し、その可憐な黄色い花は、新年を祝う花として親しまれてきました。

信州長野に生まれ、伊藤左千夫に師事、歌誌「アララギ」の主要な同人であった島木赤彦は、

 福寿草の つぼみいとしむ おさな子や
 夜はいろりの 火にあてており

と詠いました(『太虗集』所収)。寒さ厳しい冬に福寿草のつぼみがつき、それを見た子どもが、花を咲かせるために、その鉢植をいろりの火の近くに持ってきたのであります。花を思う子どもの無垢むくな優しさ、さらにその子どもを見つめる親の深い愛情や思いやりの心、それらが相まって、暖かな雰囲気が感じられる歌であります。

花を見守る子どものように、あるいは子を思う親のように、私たちは無償の慈しみを周囲に与えることができます。そのような行いこそが利他行であり、菩薩道の第一歩と言えるでしょう。常に他者のために、そして世のために尽くせる存在でありたいものです。